東海地方会
2022年3月6日 第25回研究会
- 日時
- 2022年3月6日(日) 15:00~18:20
- 会場
- オンライン開催(Zoomを利用)
- プログラム
- <情報提供>
「海外勤務者及び海外出張者への感染症対策 ~最近の疫学と予防接種~(提供:サノフィ)」
中野 貴司先生(川崎医科大学 小児科 教授,日本渡航医学会 理事長)
<第一部 基調講演>
「微生物から見た室内空気質の管理」
石松 維世先生(産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学 教授)
<第二部 会員報告>
「産業医1年目 JR東海での修練を経験して」
医学部 藤原 秀起先生(JR東海,36回生)
「卒後キャリアと大学院進学のすすめ」
看護 後藤 由紀さん(四日市看護医療大学,専攻科10期生)
「3年間の活動報告と新型コロナウイルス罹患の経験を振り返って」
環境 中田 聖さん (住理工テクノ,環境マネジメント学科12期生) - 参加者数
- 47名(医学部31名,看護7名,専攻科2名,環マネ7名)
- 報告
- 道井 聡史(本田技研工業,29回生)
2022年3月6日開催の東海地方会第25回研究会について報告いたします。
今回も新型コロナウイルス感染状況を考慮し、完全オンライン(Zoom)開催としました。
特別企画として、川崎医科大学小児科教授の中野貴司先生より「海外勤務者及び海外出張者への感染症対策 ~最近の疫学と予防接種~(提供:サノフィ)」から情報提供の時間をいただきました。中野先生は日本渡航医学会の理事長として、海外渡航者の健康問題に関して幅広く活動されておられます。今回のCOVID-19に関わる問題に関しても感染コントロールの視点でのご講演をいただきました。COVID-19ではワクチン接種による感染予防対策が進められておりますが、上気道等での増殖を来たすためワクチンだけでの感染コントールの難しさがあり、スイスチーズモデル理論によるマスクの着用・手洗いといった個々人の責任とともに、ワクチン接種といった社会の責任を実施するといった複数の対策を同時に重ねることで感染拡大を阻止することが重要と説明いただきました。その後、日本渡航医学会が2019年に作成した海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンスの内容を紹介されました。科学的根拠に基づきどのようなエビデンスがあるかを解説され、一例として、国産のA型肝炎を2回接種し海外製のA型肝炎を3回目として実施した場合の安全性や効果を調査した東京医科大学渡航者医療センター福島慎二先生からの研究成果を報告されました。エビデンスを一つ一つ積み重ねることで海外渡航者が健康的に過ごすための知見を増やす取り組みは、実際の産業保健にも活用できる視点だと感じました。A型肝炎以外にもポリオや侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)といった幅広い感染症の内容を情報提供いただきました。
第一部基調講演は産業医科大学作業環境計測制御学 教授 石松維世先生から特別講演「微生物から見た室内空気質の管理」の内容を講演いただきました。石松先生は産業医科大学に教務職員として採用された後に、作業環境測定士取得を契機に助手に転任され、学位取得を経て2021年4月より教授になられており非常に興味深いキャリア形成をされていることをお話しいただきました。今回は、微生物をテーマに昨今話題となっているCOVID-19感染症を含めた感染症に対する環境評価全体を講義いただいております。空気質の良否を判断するために浮遊微生物測定方法および浮遊微生物検出方法の二つの手法をどのように組み合わせて室内環境を評価しているかの詳細を説明いただきました。室内環境に関しては環境工学分野・室内環境分野・労働衛生分野といった複数の分野が重なるところであり、建築物衛生法や事務所則、室内空気汚染に関するガイドライン、労働安全衛生法などの各種法令が室内空気環境に関する規定が存在しています。その中でも事務所則で定められたCO2の含有率が今回のCOVID-19感染防止対策での換気状況良否として採用されており、労働衛生分野が空気中の微生物も取り扱う視点が盛り込まれていることを理解できました。また、2020年3月20日の日本建築学会空気と調和・衛生工学学会の緊急会長談話を話題に出され、換気に対する環境対策の考え方の詳細を解説いただきました。CO2濃度を元に換気不足で空気質がどのように悪化するかを具体的な事例を示しつつ、Wells-Riley感染確率モデルと呼ばれる計算式で感染者数や呼吸量・感染粒子発生量(quant)・換気量といった数値がどのように感染確率に影響するかを理論的に語っていただきました。今回の石松先生での講演を受けて換気を含めた環境対策の重要性を改めて感じました。
第二部会員報告では、会員3名からの活動報告が行いました。
藤原 秀起先生(JR東海, 産業保健経営学修練医, 36回生)からは「産業医1年目 JR東海での修練を経験して」の演題で、初めて産業医を経験されたこの1年間を振り返っていただきました。藤原先生は2019年より中部労災病院で臨床研修医を勤められ、そのさなかに今回の新型コロナウイルス感染が発生し、臨床研修医として慌ただしい1年間を過ごされたそうです。2021年4月にJR東海での産業医修練を開始され、夏から始まった職域接種にも積極的に携わり、他所の職域接種を見学されながら会場運営や救急対応の準備を実施されるなどでご活躍されたとの発表でした。藤原先生は2022年4月より産業医科大学に戻り卒後修練を継続される予定です。「産業医の能力発達の5段階」 (産業医学ジャーナル 海道昌宣先生より) を挙げられ、現在はまだ第一段階だが帰学後はより経験を積んで上の段階に進みたいと抱負を述べられ、今後のさらなるご活躍が期待される報告でした。
後藤 由紀先生(四日市看護医療大学,専攻科10期生)からは「卒後キャリアと大学院進学のすすめ」の演題で、現在の四日市看護医療大学での活動を中心に報告いただきました。産業医科大学卒業後に東海大学大学院進学を経た際の苦労と充実感を大変興味深く語っていただきました。大学院進学によって「誰のために、何のために、我々が存在しているのか」という産業保健職の存在意義を深く考えさせられたとのお言葉が印象でした。現在、後藤先生は公衆衛生看護学産業で教鞭を取られながらも、看護研究センターのセンター長も兼任されておられます。学生に産業看護の面白さを伝えるために様々な工夫を行いながら、学内学外でも非常に数多くの役職を果たされており、そのご活躍は産業保健を歩み始めた私にとっては輝かしく感じられました。報告の最後では、東海地方は四日市看護医療大学のみならず多数の産業看護系大学院が存在することを紹介され、大学院進学に興味があれば気軽に声をかけていただきたいとのお話で締めくくられました。
中田 聖さん(住理工テクノ,環境マネジメント学科12期生)からは、「3年間の活動報告と新型コロナウイルス罹患の経験を振り返って」の演題で自社での活動を紹介いただきました。自社測定士という立場で社内の作業環境測定を実施しながら、その測定結果を伝える際には専門用語を使わないように心掛けながらコミュニケーションをはかっているとのお話でした。作業者に理解してもらうことで測定結果をより有効活用してもらうという気持ちは、産業保健職にとって忘れてはならない気持ちであり中田さんの発表内容には頭が下がる思いです。報告の後半では、中田さん自身が新型コロナウイルスに罹患した経験を紹介されました。新型コロナウイルスによる体調不良のみならず、自宅隔離により誰にも会えない生活を過ごしつつ、仕事ができないことによる同僚への負い目など精神的な辛さがあったことを生々しく語っていただきました。ただ、職場復帰した際には同僚・上司から温かい言葉をかけられ励まされたことを紹介され、罹患経験の立場からも周囲の方々からコロナ罹患者への理解と協力の重要性をお伝えいただきました。
研究会終了後は引き続きオンライン懇親会を行い、閉会となりました。今回の研究会は3時間以上という長丁場ながら非常に密度の濃い時間を会員同士の学びの場とすることができました。
次回研究会は8月に開催予定です。
開催概要確定後ご案内いたしますので、参加をご検討いただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。