九州地方会
2021年2月20日 第46回研究会
- 日時
- 2021年2月20日(土) 13:00~15:30
- 会場
- オンライン開催(Zoom)& 現地開催(ACU-H 小研修室H0603)
- テーマ
- 「ダメ!ではうまくいかないアルコール関連障害の対応がわかる!~コロナ禍の支援方法・動向も踏まえて~」
- プログラム
- 講演 及び 意見交換(13:00~15:30)
講師:白坂 知彦先生(手稲渓仁会病院 精神保健科部長)
- 参加者数
- オンライン50名,現地7名の計57名
(会員43名,非会員14名)(医師25名,看護職31名,その他1名) - 報告
- 2月20日に九州地方会第46回研究会を開催しましたのでご報告いたします。
今回は「ダメ!ではうまくいかないアルコール関連障害の対応がわかる!~コロナ禍の支援方法・動向も踏まえて~」をテーマに、手稲渓仁会病院 精神保健科部長 白坂
知彦先生にご講演をいただきました。
5月開催予定から延期して迎えた今回も、福岡は緊急事態宣言下にありましたが、コロナの性質を踏まえ、少数ながら現地で直接聴講できるハイブリッド形式での開催といたしました。
今回の企画は、九州地方会のメンバーのアルコール問題を抱えた従業員の方とどう向き合っていったら良いのかという悩みから生まれたものでした。多くの産業保健スタッフも同じように悩みを抱えているはずだと思い、地域、国内外でアルコールや様々な依存症において、第一線で活躍されている白坂先生にお越しいただくことにいたしました。白坂先生は手稲渓仁会病院で「お酒のもんだい相談外来」を開設されています。「禁酒外来」や「依存症外来」という名前では“絶対に患者さんは来ない”とおっしゃっていました。
先生の診療・活動は、全て患者さん本位であることわかります。
まず依存症とは何か、身体への影響、アルコールに関わる現状と課題についてわかりやすく解説していただきました。アルコール依存症は実際にはとても危険な疾患です。併存症があれば、4年後の生存率は3分の1、4分の1になることが知られています。その危険を知っている私達は、アルコール問題のある方に対してその危険性を訴えます。しかし、アルコール依存症の方のうち、実際に受診されるのはわずか3%でしかないとのことです。治療の必要のあるほとんどの方が、そのまま悪化し、命を失う状況にあるということでした。
アルコール依存症は否認の病気だと言われます。先生は「2つの否認」を示されました。
1つめの否認は「私はアルコール依存症であることを認めない」というものです。これは自分を脅かすものから守ろうとする心の構えから生じるものです。そして「認める」とは、単にアルコール依存症という病であると認めることではなく、酒に対して自分は抗うことができなかったと知ることです。
第2の否認は「酒を飲まなければ何の問題もない」という、「すべての諸問題は酒であり、酒さえなければ自分は立ち直れる」という考えです。しかし、ほとんどの方には「酒の力を借りなければならない」ほどの悩みがあり、そこに向き合わなければ同じことを繰り返してしまいます。酒のせいだけでは説明できないこと、飲む理由があったと認めること。自分を白紙に戻す謙虚さ、勇気、自分を見通す知力が求められるのです。
次に、実際に依存症に苦しんだ患者さんのお話を聞かせていただきました。依存症になるまで酒を飲まずにはいられなかった状況について、壮絶な経験の中、酒を切らすことができなかった時期の心理について語られていました。孤独、惨めさ、悲しさ、切なさが伝わってきました。白坂先生が、外来で患者さんに「よく生き残って下さいました」と声をかけられるお気持ちがわかったように思いました。
最後に、SBIRTSの実践をご紹介いただきました。
先生はアルコール依存に関する活動を精力的に行われていらっしゃいますが、こうした活動はひとりだけではできないことを強調されていました。内科との連携、地域との連携、家族との連携、患者同士の連携、これらがとても大切であり、仕組みがあっても、それぞれの関係性こそが大切であると語られていました。先生は、患者会・内科医や看護師との勉強会に顔を出し、患者会や関係者に接することで、本当に大切なことを彼らから教えていただくのだという言葉に、白坂先生の医師としての姿勢を感じました。
今回、事前のアンケートでは多数の質問が寄せられました。
実際的な質問も多く、アルコール問題への対応に悩まれていることがわかりました。先生には事前に質問を共有させていただき、講義の中でほとんどの質問に回答をいただけましたが、それでも難しいと感じることがあります。明らかな問題があるのに、思うようにいかず、悩みます。このような場合には「チャンスを待つ」ことが大事だとヒントを下さいました。その時には動かなくとも、その方が助けてほしいと思った時に、その人と繋がるようにすることは出来るのではないか。白坂先生も、種をまいたり、はしごをかけたりするような地道な活動を日々の診療や自助グループの中で続けていらっしゃるのだそうです。
コロナ禍で、アルコールの問題が顕在化しにくい現在においては、人と人との繋がりや人を尊重する姿勢がますます必要だと再確認しました。アルコールの問題を抱えた方に接すると、私達は早く介入をして、早く解決しなくてはと考えてしまいます。しかし、問題に立ち向かって解決をしていくのは本人であるべきです。本人が自身の問題に気づいていないのであれば、待つのも一つの選択です。また、自身の問題として認識されていても、アルコールの問題に対して一人で向き合うには勇気がいります。彼らが安心して問題に向き合えるよう、私達には決めつけたり諦めたりせず、寄り添って支援し続ける姿勢が大切なのだと学びました。
今回の研修は、知識や理論のみならず、医療職としてかかわる上での大切なことを学ばせていただきました。企画メンバーで「自身の偏見や正論の押し付けを行っていたことを反省し、考え自分を見つめ直すことのできた研修だった。心を揺さぶられる講演は初めてだった」「今は違うかもしれないけれども、いつかタイミングが来る。それまで、見守ってあげてください、と先生がおっしゃっていたことに私は励まされた。」「つらい思いを日々抱えながら働き・生きていてくれる社員さんの姿に感謝しかない。産業保健師として健康状態の理想を追いかけることも大切だが働けること・生きていること自体のすばらしさを信じて伝えていけたら。」という気持ちを共有しました。