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最終更新日:2024年11月25日

近畿地方会

2024年4月6日 第51回研究会

日時
2024年4月6日(土)14:30~17:00
会場
MEETING SPACE AP大阪駅前 会議室A

オンデマンド配信
テーマ
精神障害の労災認定基準の改正や過重労働対策について産業保健職が考えておくべき課題と対応
講師
吉川 徹先生
(労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター,13回生)
参加者数
現地参加者:23名
オンデマンド配信申込者:51名
報告
松山 和史(クボタ,35回生)

2024年4月6日(土)に開催されました近畿地方会第51回研究会に関してご報告いたします。

労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センターの吉川 徹先生に「精神障害の労災認定基準の改正や過重労働対策について産業保健職が考えておくべき課題と対応」のテーマについてご講演いただきました。現地会場とオンデマンド配信による開催であり、現地参加は23名、オンデマンド配信には51名の方にお申込みをいただきました。

まず前半のお話として「過労死等の労災認定状況と精神障害の新労災認定基準改訂」についてご講演いただきました。過労死等の労災認定状況として脳・心臓疾患の請求件数、支給件数は近年やや減少傾向を認めている一方で、精神障害の請求件数、支給件数ともに一貫して増加傾向であり、精神障害の中にはうつ病だけではなく、急性ストレス反応や心的外傷後ストレス障害も多く含まれていることが明らかになっております。精神障害に関して認定時の決定時疾患名を男女別に調査すると、男性の60%は気分障害、女性の73%は神経症性障害等が占めており、自殺案件では男女ともに気分障害が7~9割を占めている状況であることをご説明いただきました。さらに精神障害の労災認定の理由となった心理的負荷の出来事には業種ごとで相違があることをご説明いただき、IT産業では長時間労働関連の出来事が最も多く、医療・福祉では事故・災害関連の出来事、運輸・郵便業では長時間労働や事故・災害関連の出来事が多いということから、防止対策も業種ごと、職場ごとに異なり、それぞれに適切な防止対策を実施することが望まれます。

次に精神障害の労災認定基準に関する改正とそのポイントについてお話いただきました。2023年9月に精神障害の労災認定基準が改正され、「業務による心理的負荷評価表の見直し」、「精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し」、「医学意見の収集方法を効率化」の3点がポイントであることからさらに詳しい内容について説明いただきました。業務による心理的負荷評価表については具体的出来事に関して類似性の高い項目を統合したことにより細目が37項目から29項目へと減少し、それぞれの具体的出来事に対して具体例が明記されました。職場の支援・協力の状況等や勤務間インターバルの状況について総合評価の視点に明記されるなど、これらの例示以外にも総合評価の視点を拡充したことが挙げられておりました。精神障害の悪化の労災認定範囲の見直しとしては、業務外で既に発病していた精神障害の悪化前おおむね6ヵ月以内に特別な出来事がない場合でも、業務による強い心理的負荷により悪化したと医学的に判断されるときには業務と悪化との間に因果関係があると判断されるとのことであり、精神障害の労災保険上の治癒となる場合がより具体化、明確化されたことでそれらの判断がつきやすくなったと考えられます。医学意見の収集方法効率化についてはこれまで専門医3名の合議を必須としていたものを高度な医学的検討が必要なものを除き、専門医1名又は主治医意見の収集により決定可能と判断されたもので、労災認定までの期間を短縮させるための改正であることをご説明いただきました。精神障害の労災認定には様々な難しさがあり、診断の揺れや請求人への調査の困難性、事実認定の難しさ、心理的負荷の評価の難しさなどがあるとのことでした。ただ、職場要因以外の家族の要因や個体側要因が精神障害の発生の大きな要因と考えられる場合においても職場の要因として心理的負荷が「強」レベルと判断された場合には精神障害の労災として認定されるということでした。今後検討されるべき課題として、労災認定後の精神障害の治療継続に関することや職場復帰、給付期間の見直しなどが挙げられており、今後検討が行われるであろうとご説明いただきました。

講義の後半は働き方改革、運輸業、建設業、医師の2024年問題についてお話をいただきました。運輸業、建設業は脳・心臓疾患、精神障害の労災請求件数が多く、特に運輸業では過労死の支給決定件数が最も多く、精神障害による労災請求件数も右肩上がりで増加していることが報告されております。そのため、過労死等防止対策と働き方改革とが一体になって効果を上げることができるように取り組みが行われていることや建設業での無理な工期の禁止、特定技能について運送業を追加することなど様々な施策が検討されていることについて説明いただきました。

後半はグループワークを行い、前半の講義内容の感想の共有や現場、実務でどう活かすことができるか?という観点でディスカッションを行いました。このディスカッションでは猿人類分類を使用してそれぞれのタイプではどのように考え、どのように行動するかを話し合いました。非常に活発な議論が行われ、それぞれの視点から考えられることや産業保健職として求められていることは何かということをより一層強く認識することができたと感じております。
研究会終了後、近隣の会場で懇親会が開催されました。参加者はそれぞれの近況や今後の展望について熱心に話し合い、世代、職種を超えた幅広い交流が行われました。盛会の中、懇親会は終了いたしました。

今回のご講演を通して、2024年問題として大々的に取り上げられることが多い分野ですが、吉川先生からはそういった業種、職種にこそ産業保健専門職としてやりがいがいっぱいあるとお話がありました。心理的負荷の出来事には業種ごとで違うこと、さらに実際の現場を知ることができる産業保健職だからこそ実践できることがあると感じ、そういったニーズへ対応することができるよう日々精進してまいりたいと強く思いました。このような貴重な機会をいただけましたこと、心より感謝申し上げます。

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