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最終更新日:2026年4月1日

関東地方会

2026年2月21日 第88回研究会

日時
2026年2月21日(土) 14:00~17:00
会場
日本橋ライフサイエンスハブ 8F
&
オンライン
プログラム
◇第1部 14:00~15:40 講演
「一般健康診断項目の改訂に関する検討会」を俯瞰して思うこと 産業医大に未来を託して...
立道 昌幸先生(東海大学医学部 基盤診療学系 衛生学公衆衛生学,医4期卒)

◇第2部 15:40~17:00 グループディスカッション
「未来の健診をデザインする」~労働者の健康に本当に寄与する仕組みとは?~
参加者数
66名(現地参加29名,オンライン37名),懇親会31名
報告
小笠原隆将(三菱ふそうトラック・バス,医27期卒)

2026年2月21日に実施しました、関東地方会第88回研究会の報告です。
今回は立道昌幸先生(東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学:医4期卒)を講師にお招きし、「一般健康診断項目の改訂に関する検討会」をテーマに、立道先生の半生を振り返っていただきつつ、検討会の舞台裏や健診制度の課題、今後の展望について講義とディスカッションを行った、充実の3時間でした。
また、今回は参加者が現地・オンライン合わせて66名と、弊方が関東地方会長に着任してから過去最高の参加者となっておりました!当会の関心の高さを感じました。参加いただいた皆様、また他日程等でご参加叶わなかったご連絡を頂いた皆様、そして立道先生、改めまして御礼申し上げます。以下詳細です。

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(第1部)
「一般健康診断項目の改訂に関する検討会」を俯瞰して思うこと 産業医大に未来を託して
講師:立道昌幸先生(東海大学医学部 基盤診療学系 衛生学公衆衛生学)

講義冒頭、立道先生はご自身のキャリアについて、高校球児として甲子園を目指した経験、在学中の大久保利晃先生との出会い、卒後に浜口先生、柱先生、廣先生と産推研を立ち上げた経緯、さらに専属産業医で従事していたSONYにて、職域のがん対策とVDTと緑内障を研究される契機があったこと、深澤先生と中近東で医療巡回に携わった経験などを語られた。文面に収まりきらないほど多彩な活動が紹介され、とくに産推研メンバーで立ち上げられたS-LIT Studyに込めた思いは、地方会長としての立場にも深い示唆を与えるものだった。続いて、国立がんセンターで江角浩安先生、赤池孝章先生、津金昌一郎先生らとの交流を通じて発がんメカニズムや分子疫学を学び、検診の有効性評価には有病率・検査前確率、そして特に疾患の自然史といった視点が不可欠であると認識するようになった、という流れで本題に入った。

本題の第一は、健康診断(Health Check up)と検診(Screening)の違いである。健康診断は一次予防として将来のリスクを低減することを目的とするのに対し、検診は無症状者から疾患を発見し精密検査・治療へつなぐ二次予防である。両者が制度上混同されるため、目的に合わない項目や運用が生じていることが課題として示された。当点は、検討会の委員間でも混同されて討議されていたことを指摘されていた。

第二に、Screeningのポイントをお話しされた。まずScreeningの成否を左右する有病率の重要性が強調された。今回の一般健診の検討会では、「Wilson & Jungnerによるスクリーニングの原則」の10の原則の文言が引用されているが、特にその中でも「スクリーニングが疾患の自然史が十分に理解されているものでないとスクリーニングにかけるべきではない」という点を強調されていた。(参考書:スクリーニングプログラムガイドブック/スクリーニングの原則と実践(弘前大学出版会))

第三に、検診の利益と不利益が整理された。早期発見の利益の裏側に、偽陰性、心理的不安、侵襲的精密検査、過剰診断などがあり、前立腺特異抗原(PSA)の例のように「見つけなくてもよい病変」を拾って治療過剰につながる問題が指摘された。また、早期発見しても治療成績が変わらない疾患では検診実施の合理性が乏しいとされた。

第四に、日本の制度運用上の課題として、エビデンスの扱いがある。日本では制度が先行し、後から根拠を探す構造になりやすい。真の評価には介入効果のエビデンスを出すことが必要であり、就業上の措置を含めた介入効果の検証体制を整えるべきと述べた。そしてステークホルダーの多い事項については、「一度数年かけて、静かなところで議論する(別途議論する)必要があるのでは」と、政策決定のプロセスに対しても意見を述べられていた。

第五に精度管理の重要性が示された。特に胸部X線や心電図など、人が読影・判断する工程を含む検査は施設差や判定者のばらつきに影響されやすく、制度改定の議論では妥当性・管理方法・過剰診断リスクなどが焦点になる。
加えて先生は、一般健康診断の“目的”が同じ『健診』という言葉で語られても制度ごとに性格が異なる点を確認した。安全配慮義務に基づく一般健診、医療費抑制の目的が色濃い特定健診、任意性の強い人間ドック等では、期待されるアウトカムも介入主体も異なる。にもかかわらず、実務ではしばしば同一視され、検査項目の妥当性や事後措置の責任範囲が曖昧になりやすい。さらに、検討会が開かれた背景として、規制改革の流れによる法定項目の合理化圧力、海外から見た日本の健診の多さと有効性検証の必要性、女性の健康課題などが重なっていると整理された。

最後に、健診は「全国一律の固定パッケージ」ではなく、業種・職務・事業規模に応じて柔軟に設計できる仕組みに転換すべきだと提言された。提案としては、全住民に共通して必要な健診は住民健診でカバーし、その上で各職種でリスクになるものを追加するという方向性である。そして産業医大を出ている皆様においては、産業保健の範疇のみを見るのでなく、成人保健を考えられるようにしてほしいということを明言された。そして業務関連についてどれくらいの死亡があるのかを見たNew Global indicatorにおいて、日本は10万人あたり33人で、その2/3ががん死亡である推計にもかかわらず、実際の労災では就業中社員はゼロ、定年後で毎年1000人程度と30倍の開きがあり、業務起因性におけるがんの過小評価の問題を提起された。このため職業関連がんや疾患の潜在ニーズに対して必要な曝露情報とアウトカムの収集の仕組みづくりをお願いしたいと述べられた。そして参加者に対して、「産業保健にとどまらず世界に誇れる公衆衛生」をめざしてほしいこと、「わが産業医大は永遠に不滅です!」という言葉で講義を締めくくられた。


(第2部)
グループディスカッション:「未来の健診をデザインする」
~労働者の健康に本当に寄与する仕組みとは?~

後半の討議時間では、現地参加・オンラインを1組5,6名程度に分けて、8グループでグループ討議後、全体討議を行った。
全体討議では、制度が社会インフラ化しているため『一度始めた施策は止めにくい』という現実が共有され、外圧(大きな制度変更圧力)を待つだけでなく、内部から変える準備として議論内容を文書化し、改定局面で提示できる形に残す重要性が確認された。意思決定プロセスが曖昧で、政策が先行しエビデンスが後付けになりがちな点への懸念も挙がり、参加者のうちの行政経験者からは医療費抑制などの行政事情が背景にある可能性、一定範囲では専門家の問題意識と大差はない一方、利害関係者が混在する場では議論が複雑化しやすいという見解が示された。

また、学会・専門家集団の役割として、ステークホルダーが集まる場に出る前段階で政策法制度委員会等を通じて科学的論点を整理し、継続的にロードマップと研究基盤を作る必要があるとの意見が続いた。現場からデータを出し、就業上措置など介入の有無でアウトカムを比較できる設計を進めるべきだという提案もあり、産業保健領域の研究者人材が減っている現状への危機感が語られた。あわせて、産業衛生の専門医資格の社会的価値を高め、専門性を制度運用(項目選定や事後措置の標準化)に接続できる仕組みにするべきだという問題提起もなされた。

討議ではこのほか、行政の施策が『公益や国民の健康にどの程度資するのか』『意思決定がどこまでエビデンスに基づいているのか』といった率直な問いも出された。参加者からは、制度が法令として一度実装されると見直しが難しく、現場は受け身になりがちである一方、専門職側が自ら根拠を作り政策提案につなげる姿勢が必要だという反省も共有された。これに対し、行政経験者からは、医療費抑制など複数の政策目的が同時に走る中で、純粋に科学的妥当性だけで決め切れない局面があること、また利害関係者が集う場では“誰のための制度か”という価値判断が不可避となり、科学論点の整理は前段階で行うことが望ましい、という趣旨の補足があった。

さらに、企業・現場からデータを出して介入効果を検証するには、個別企業の努力だけでなく、学会等が中心となった共通指標と研究基盤(データ定義、追跡、介入内容の記述、アウトカム設定)の整備が必要だという点でも意見が一致した。産業保健の研究者・教育資源が限られる中、専門医の育成と社会的認知を高めること、そして小規模事業場を含めて“業務と関連するリスク”に応じた追加項目や事後措置を設計できる体制を強化することが、制度改善の実装面で鍵になるとまとめられた。

終盤には、立道先生への、これまでの産推研への貢献に対する謝意が佐藤裕司副会長から述べられ、研究会として感謝と祝意を表する場面が設けられた。佐藤副会長からは、長年の指導への感謝と退任に向けた祝意が述べられ、ワインの贈呈があった。本会は現地・オンラインで集合写真をとり、終了となった。


本会後に開催した懇親会も非常に盛況で、会に参加されました皆様が終始笑顔で立道先生と、また参加者同士各々とで、歓談されていたのが非常に印象的であった。最後に立道先生をかこみ集合写真をとり、散会とした。









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