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最終更新日:2024年3月19日

九州地方会

2020年1月11日 第45回研究会

日時
2020年1月11日(土) 14:00~16:00
会場
場所:博多バスターミナル9F大ホール
テーマ
「性別違和・多様な性について」
プログラム
講演 及び 質疑応答(14:00~16:00)
講師:永野 健太先生(福岡大学医学部精神医学教室 助教)
主催
日本産業衛生学会九州地方会産業医部会
共催
福岡県医師会
福岡産業保健総合支援センター
日本産業衛生学会九州地方会産業看護部会
産業医学推進研究会九州地方会
参加者数
38名(うち会員18名:医師12名,看護職6名)
報告
吉積 宏治(吉積労働衛生コンサルタント事務所,10回生)

去る1月11日に博多駅バスターミナル大ホールで産業衛生学会九州地方会産業医部会医師会、福岡産業保健総合支援センターとの共催で第45回研究会を開催しました。
講師には福岡大学医学部精神医学教室 助教 永野健太先生にお越しいただき、社会的だけでなく職場でもトピックスになっている多様なジェンダーについてご講演いただきました。
直前のご案内にも関わらず参加者38名の方にお集まりいただきました。

従来の男性、女性といった二元論での分類では悩んだり、困っている人がいること、また悩んだり、困ったりしている事自体が共有されにくいこと、従来の男性・女性に当てはまらないことを常識や道徳に反することのように言う人がまだ多いことなどが指摘されました。そのような背景から、最近のSNSでは本人が「性別」を指定する欄で単に「男性」「女性」だけでなく多くの性別を選択できるようになっていることや、多様な性を表現する用語についても、LGBTだけでなく、性同一性障害、性別違和、性別符号、トランスジェンダー、シスジェンダー、LGBTIAQ、SOGIEほか従前では見なかった言葉が出てきており、それらに対して知識を持つことへの重要性が示されました。性の要素については1)生物学的な性(性染色体、性器)、2)性自認(自分がどの性別と認識しているか)、3)性的指向(自身の性的関心の対象がなにか)、4)性役割(社会的・世間的にどのように認識されるか)、といったことがあり、従来はこれらの組み合わせだけで分類されていましたが、単に各要素が有無の組み合わせというよりは、それぞれの要素の「強さ」、ちょうど音響装置のミキサーのように強弱がつくことで、多様な性がさらに個別化してきている、ということが示されていました。
また性同一性障害(Gender Identity Disorder, GID)は前述の1)生物学的な性と2)性自認の不一致に寄るところですが、例えば1)生物学的な性が男性で、2)性自認が女性の場合のGIDの場合、「性自認が女性なのだから、男性が好きなのだろう」と思われがちですが、男性が好きな場合もあれば女性が好きな場合もあり、GIDと性指向は必ずしも関係なく、周囲がGIDを理解するうえで陥りやすい間違いとして示されていました。

法律上は戸籍の変更ができるようになったものの、「生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」というのが必要条件としてあり、現行では1回行うことがやっとで、戸籍での性別変更を行ったあとで「やっぱり違う」と自覚した場合に、もとに戻すことができない、片道切符になっています。WHOなどの共同声明では「生殖腺切除を性別変更の用件として共用することはできない」としていることや、オリンピックの出場条件(2015年)では生物学的な性が女性だった人が男性として競技に出場する場合(Femail to Mail, FTM)は条件なく出場することができ、逆のケース(MTF)では、性同一性が女性であることを宣言し、最低4年間は変更することができないこと、12ヶ月間血清中の総テストステロンレベルが男性下限である10 nmol/L以下であることなどの条件を満たせば女性として出場できるとなっており、実際に活躍している選手がいることが紹介されました。特に、「障害」という言葉の背景には、困っている、悩んでいるということがありますが、これらは社会的に受け入れられることで、クリアーできる問題も多いと思われます。そのようなこともあり、私自身、障害(Disorder)という言葉には以前から違和感を持っていましたが、DSM-5では性別違和(Gebder Dysphoria)という言葉が使われるようになり(2013年)、ICD-11では2022年からは性別不合(Gender Incongruence)として示されていることが紹介され、もはや「障害」ではなく、社会的に与えられた性別、しかもをそれが2分法でなく個人にフィットした状態が受け入れられるようになってきている状況にあることがわかり、腑に落ちた気がしました。今後もより深く理解が進むことで、状況が変化し、用語が加わり、制度や法律が変化することも推測され、産業保健職としてはキャッチアップしていくことが重要と思われました。
自身の意志とは関係なく、カミングアウトされてしまう(強要されてしまう)と言った「アウティング」は、過去にも問題になった例があり、すべきでないことはもちろんですが、本人がどうしたいか、またその選んだ状態によって不利益を生じたり、差別を受けたりすることがあってはいけません。個々人が気持ちよく働くことができる環境を維持するために、必要な知識を提供したり、教育を行うことが産業保健スタッフには望まれるようになることが予測され、今後も関心を持って接していくことが必要であると痛感しました。
また、制度もですが、私達自身がセクシャルマイノリティについて語る前に、自分たちのセクシャリティについて目を背けてはいけない、ということも提言され、議論も幅広く尽くされ、非常に充実した研究会となりました。

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